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2018.01.30

【特集】優勝経験なしで全日本王者へ、今年は世界へ飛躍する!…男子グレコローマン63k級・井ノ口崇之(自衛隊)

井ノ口崇之(自衛隊)

 伏兵(ふくへい)-。敵の不意をつくため隠れて待ち伏せする兵士のことで、転じて、予期していなかった人物や事象に使われる。昨年12月の全日本選手権で、最大の「伏兵の優勝」と言えるのは男子グレコローマン63kg級の井ノ口崇之(自衛隊)だろう。

 京都・廣学館高時代は全国大会ベスト8が最高。自衛隊に進んでからの3年間でも優勝は一度もなし。初めての優勝が今回の全日本選手権。高卒の自衛隊選手で全日本王者に輝いた選手としては、最近では2009年の清水博之(グレコローマン66kg級=現コーチ)や2014年の角雅人(グレコローマン80kg級=現87kg級)がいるが、ともに全日本社会人選手権や国体などでの優勝を経ての王者だった。優勝経験なしで全日本チャンピオンになった選手も珍しい。

 当然、試合後にインタビューを受けたのは初めて。全日本合宿に呼ばれたのも、通い参加は別とすれば今回が初めて。2月27日(火)からキルギスで行なわれるアジア選手権の日本代表に選ばれたが、これが初めての国際大会。何から何まで初めてづくしだが、「自分の技がどれだけ通用するかを試してみたい」と燃えている。

0-7から逆転勝ちした全日本選手権決勝

 決勝の松井涼(専大)戦は絶体絶命状態からの逆転だった。松井のローリング攻撃を受けてしまい、スコアは0-7。あと1点でテクニカルフォール負けの窮地だったが、ここで踏みとどまり、最後に5点となるリフト技を決めて逆転で栄冠を勝ち取った。試合直後のインタビューでは、「グラウンドには自信があります。逆転できると信じていました」とコメントしたが、本当は「負けるかも」という気持ちがよぎったという。

全日本選手権決勝、起死回生のリフト技を狙う井ノ口=撮影・矢吹建夫

 「正直言って、優勝できるとは思っていなかったんです」。社会人の新人選手の登竜門とされる全国社会人オープン選手権での優勝もないのだから、こう思っても不思議ではあるまい。

 そこを勝ち抜けた要因は? 地道な努力の成果であり、63kg級という自分に最適の階級だったこともあるが、井ノ口は、自分が決勝のマットに出るまでに自衛隊のグレコローマンの先輩が全員決勝に進んでいたことを挙げる。志喜屋正明、花山和寛、岡太一、角雅人。「その流れを止めてはならないと思いました」。井ノ口の勝利は、自衛隊グレコローマン勢の力の結集でもあった。

 もちろん、全日本王者が終着点ではない。むしろスタート。全日本王者というのは、上の階級の王者とも互角近くに闘えるのが普通だが、そんな状況ではなく、下の階級の王者(太田忍)にも勝てないのが現実。「3階級の中でボクが一番弱いです」。まず下の階級の王者だろう。太田を上回るようになれば、間違いなく世界でも通じるはずだ。

雑草を支えたのは、雑草からオリンピック出場を果たしたコーチ

全日本選手権の優勝を決め、自衛隊応援席からの祝福にこたえる=撮影・矢吹建夫

 中学時代までは柔道の選手。高校の階級区分が変わり、当時40kg台前半だった自分の体重では「最軽量の55kg級でも闘えない」と思った時、廣学館高の鈴木貫太郎監督に声をかけられ、レスリングに転向した。気持ちに反して、高校からレスリングを始めて全国大会で勝ち抜くことは難しかった。それでも「柔道では全国で活躍できず、レスリングでもできなかった。このままでは終わりたくなかった」と、卒業後もレスリングを続けることを決めたという。

 全国大会ベスト8の選手が“プロ集団”の自衛隊に入って、すぐに通じるものではない。同じ階級には世界7位の実績を持つ倉本一真やハンガリーGP2位など国際舞台でも成績を残している清水早伸らの先輩がいて、1ポイントも取れない日々が続いた。「この人達に勝つことができるのだろうか」と絶望的な気持ちにもなったという。

 そんな井ノ口を励まし、ていねいな指導を続けてくれたのが、自衛隊に誘ってくれた元木康年コーチ(現海上自衛隊横須賀教育隊勤務)だった。元木コーチは自衛隊に入ってからレスリングを始め、何の実績もないところから全日本王者、そして2000年シドニー・オリンピック代表にまでなった選手。それだけに、実績のないまま自衛隊に来た井ノ口を思う気持ちが強かったのだろう。

初の全日本合宿で練習する井ノ口

 入隊直後の井ノ口を「背筋が強く、瞬発力があった。スタミナがつけば全日本の上位は不可能ではないと思った」と振り返る。今回の教え子の快挙を喜ぶ一方、「決勝は(前半に)ポイントを取られすぎですよ。しっかり反省して次に生かしてほしい」と、“師匠”ならではの厳しいコメント。「目指すのはオリンピックのはず。全日本チャンピオンで満足しないでほしい」と今後の飛躍を期待した。

 「元木コーチの支えがあったので、ここまで来ることができました」と言う井ノ口。アジア選手権のあとは、欧州遠征へも声がかかっているそうで、この冬は国際大会を通じての実力アップが見込まれる。全体の底上げが進んでいる自衛隊グレコローマン・チームの中で、無名だった選手が世界へ飛躍する。







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