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2018.10.24

【2018年世界選手権・特集】日本男子初の10代世界王者誕生! 強くて練習の虫…男子フリースタイル65kg級・乙黒拓斗(山梨学院大)

チャンピオンベルトを肩にかけ、金メダルを見せる乙黒拓斗

 【ブダペスト(ハンガリー)、文=布施鋼治、撮影=保高幸子】男子フリースタイル65㎏級の乙黒拓斗(山梨学院大)が、師である高田裕司・現日本協会専務理事(山梨学院大監督)が保持していた「20歳6ヶ月」という記録を44年ぶりに更新。日本男子としては最年少となる19歳10ヶ月での世界選手権優勝を成し遂げた。

 試合後、記者団の前に現れた高田専務理事は「最高だね」と笑顔で話し始めた。「今日は二つ、うれしいことがある。ひとつは私の記録を破ってくれたこと。もうひとつは世界チャピオンになってくれたことです。自分の教え子が自分の記録を破る。こんなにうれしいことはない」

 乙黒にとって今大会は初の世界選手権出場というだけではなく、個人戦では初のシニア国際大会出場だった。にもかかわらず、1回戦から準々決勝までは3試合連続テクニカルフォール勝ち。続く準決勝でのアフメド・チャカエフ(ロシア)戦は予期せぬチャレンジ合戦となったが、15-10で撃破し決勝進出を決めた。

指導者の想像できない別次元にいる選手!

 山梨学院大の小幡邦彦コーチは、ここまで行くとは思わなかったと驚きを隠せない。「出場メンバーの中には準決勝で闘ったロシアの選手ら3人ほど、やってみないと分からないという相手がいた。ただ、こちらが想像した以上に乙黒はちょっと別次元にいる感じだった」

試合終了! 優勝を決め、座ったまま雄叫びを上げた乙黒

 弱冠19歳。別次元にいる選手とは、どんなイメージなのだろうか。高田専務理事の証言。「今までの日本のレスリングは前に出て崩してタックルというのが基本だったけど、乙黒は違う。彼の十八番はカウンターのレスリング。相手が入ってきた瞬間に、たいてい横からカウンターで入り込む」

 目まぐるしく攻防が移り変わったプニア・バジラン(インド)との決勝でも、別次元ぶりはいかんなく発揮された。第1ピリオド開始早々、乙黒はいきなりタックルへ。小手投げの体勢でバジランはしのごうとするが、乙黒は場外へと誘い先制点を奪う。

 その直後、小股すくいの要領でバジランのバランスを崩しながら場外まで吹っ飛ばすと、場内から大きなどよめきが起こった。乙黒の体の使い方や崩し方があまりにも斬新だったからだろうか。

 これで5-0。テクニカルフォールは時間の問題かと思われたが、ここからバジランは反撃を開始する。立て続けに乙黒のバックを奪って4点を取り、1点差へ。試合のペースはバジランに傾いたと思いきや、乙黒はすぐに場外ポイントを奪い返し、7-4と再び突き放す。するとバジランも2点を奪い、再び1点差まで詰め寄る。第1ピリオドが終わると、一瞬たりとも目が離せない攻防に観客は惜しみない拍手を送った。

足首負傷のアクシデント、負傷棄権の危機も攻撃で乗り切る

 第2ピリオドになると、乙黒は右足首を負傷するアクシデントに見舞われる。第1ピリオド、相手の攻撃を受けて踏ん張った時に外側にひねってしまったという。その痛みがタイムラグを経て出てしまった。試合中動けなくなった乙黒は2度もコーションを受け失点を重ねてしまう。

右足首の負傷で戦闘不能か、とすら思われた試合を勝ち抜き、厳しい表情でウイニングラン

 万事休すかと思われたが、それでも乙黒が攻撃の手を休めることはなかった。場外ポイントやタックルからのテークダウンで追加点を加えていく。第1ピリオドで5点差から5-4、7-6と点数差を縮められた時もそうだった。なぜ手負いの状態でも反撃することができたのか? なぜ1点リードで迎えていたら、その1点を守ろうという気にはならなかったのか? 

 乙黒はいずれのケースも「もうここまで来たらやるしかない」と開き直っていたと振り返る。「負けたくなかったので、攻めるしかなかった。あそこで守っていたら、絶対勝てなかった。強気に攻めることができたのが結果的に良かったと思う」

 そんな乙黒のずば抜けた攻撃能力の高さを高田専務理事も絶賛する。「7-6になった時、インドのペースになったのでヤバいなと思ったけど、乙黒には攻撃力があるので、あそこから取っていける。それが彼のすごさ。普通だったら、あそこでガクッとくる」

スイッチが入ると別人モードに

 周囲からは称賛の嵐ながら、当の乙黒は至ってマイペース。出場前には「2年後の東京オリンピックに向け、良い点と悪い点を見つけるという目的で出場していた」と口にしていた。

マットを降りるやいなや、激痛で座り込んでしまった乙黒

 「今後は小幡コーチと兄(今回の世界選手権で70㎏級に出場した乙黒圭祐)と話し合って、12月の全日本選手権に向けて改善できるところは改善していきたい」。別次元の男は、改善点も喜ぶべきプレゼントだと解釈する。「今大会は1試合目から改善点があったので、改善するところが多くてちょっとうれしいかなと思います」

 一見華奢な美男子。素顔は乃木坂46をこよなく愛する普通の19歳の大学生だ。失礼ながら強く見えるルックスでもないが、それは周囲も認めるところ。「普段の乙黒は人が変わったのかと思うほど大人しい。スイッチが入ると、別人になるんですけどね」(小幡コーチ)

 大学では練習の虫として有名だ。高田専務理事は「この大学に30年いるけど、こんな選手は見たことがない」と目を細める。「人気のない道場に電気がついていると思ったら、乙黒がひとりで練習している。だいたい強い選手は練習しないものなんですけどね。強くて練習をやっているから乙黒はホンモノだと思いますね」

 いったいどこまで強くなるのか。決勝のウォームアップ時、すでに他国のコーチ陣はこぞって乙黒にビデオカメラを向けていた。







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