【2020年西日本学生選手権・特集】福岡で燃える“東京・自由ヶ丘学園魂”！ OB3選手がメダル獲得

そろってメダルを獲得した東京・自由ヶ丘学園高OB。左から今村太陽、北英将、岩野駿（いずれも福岡大）

　強豪選手が東京に集まることの多い日本のレスリング界。しかし、時代は変わっている。

　今年の西日本学生選手権・新人選手権では、福岡大の今村太陽（あさひ＝4年）が選手権の男子グレコローマン87kg級で2年連続優勝を達成し、北英将（3年）が同男子フリースタイル86kg級で2位、岩野駿（2年）が新人選手権フリースタイル70kg級で優勝と、３人の東京・自由ヶ丘学園高OBがメダルを獲得。鎮西（九州北部の別称）の大学に、旋風を起こした。

　先陣を切ったのは4年生の今村太陽。父は日体大OBの今村浩之・現クリナップ監督で、2年連続学生王者に輝き、全日本選手権2位の実績を持つ強豪選手だった。太陽は1年生の時に西日本学生新人戦で優勝し、期待に応えてきた。今大会は決勝で豪快なリフト技を爆発させての優勝。チームのいいムードを作った。

決勝でリフト技を爆発させた今村

　しかし、「5位に終わった全日本大学グレコローマン選手権では体が動かず、その課題をクリアすることを考えていたのに、新たな課題が見つかって…」と喜びの言葉より反省の弁。リフト技が見事に決まったものの、「第2ピリオド、守ってしまった」と言う。初戦が2－1と僅差の勝利だったことも、満足できない理由のようだ。「自分に来るはずがない、と思えるコーションが来るとイライラしてペースが乱れてしまう。直さないとならない」と気を引き締めた。

　福岡での生活は3年半を迎える。「レスリングができる環境なら、どこでも構わなかった。最初に声をかけてくれたのが福岡大だった」と、認めてもらえたのがうれしく、福岡行きを決断した。入学当初は生活様式の違いに戸惑ったこともあったが、「慣れれば問題ないです。来てよかった、と思っています」と言う。

強豪選手の陰で努力したことが実った…岩野駿

　2日目に出場した岩野駿は、キッズ時代から通じて初のタイトル獲得。今村と同じで、「失点が多かったので満足できない。デフェンスを強くして、もっと力をつけたい」と反省の言葉が並んだ。高校時代は、キッズ時代からの強豪で高校三冠王者の森川海舟（現拓大）と同じ階級。そのため大会出場に恵まれず、全国大会での実績はない。「レスリングを続けたい」という気持ちを福岡大が受け入れ、2年目にして期待に応えた。

　「試合に出られなかったのは悔しかったですが、続けていけばいつかは（追いつける）、と思っていた。いつか追いつくぞ、という気持ちで練習していた」と振り返る。森川は別格として、他の高校の選手とは大きな差は感じなかったので、必ず表に出ようと努力してきたと言う。

　福岡大に進むことで同期生とも遠く離れてしまうが、「採ってもらえることになり、先生方の期待にこたえようと決めました」と言う。この優勝を自信とし、「来年は全国を目標に頑張ります」と力をこめた。

負傷もあって敗れたものの、最後まで攻撃を続けた北

　最終日に出場した北英将は腰を痛めており、結果論だが、決勝は棄権するのが妥当だったかもしれない。高校の先輩と後輩に続きたいという思いから出場に踏み切った。「続きたかったですね…。万全な状況で臨めなかった自分の弱さです」と無念そう。昨年、2年生で両スタイル優勝を成し遂げており、「連覇を目指したい」という気持ちもあったと言う。

　福岡大へ進んだのは、今村が進んだことが大きな要因だった。「ずっと教えてもらっていた先輩で、超えたい先輩でもありました。（福岡に行くことには）特に抵抗はなかったです。レスリングができれば」と、地方の大学を選んだことを説明した。

「新しい道筋をつけられて、よかった」…今村太陽

　今村が先導役となり、東京の強豪高校の進学先として定着しそうな福岡大。今村は「後輩が続いてくれ、新しい道筋をつけられたのはよかったし、うれしい」と話す。教員免許を取るため卒業後も1年間、大学に通うとのこと。都会育ちの人間でも、居心地のよさを感じるのだろう。

　5年ほど前に強豪の茨城・霞ヶ浦高や埼玉・花咲徳栄高の選手が同志社大に進んだ時、ちょっとした話題になった。福岡大でも当時から群馬県の強豪選手を受け入れていた。今では、山梨県や青森県の選手が九州共立大に進んだりし、進学先の“ボーダレス化”はわずかずつだが進んでいる。

　日本レスリング界の長年の課題だった大学の東西格差の解消は、今度こそ、少しずつ進行しているのかもしれない。